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短く、身近に。

坪内祐三「玉電松原物語」

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振り返るとかなり自由な時代だった。

2020年1月に急逝された坪内祐三さんの遺作。
2020年10月の刊行直後に予約注文していたが、東京の風景に馴染みがないため、手が伸びずにいました。

著者が過ごした幼少期の風景や出来事や人々を描いているのだが、行ったことのない世田谷区の知らない風景の知らない人たちのことが何でこんなに面白いのか。
私が著者を愛読してきたから文章やリズムに馴染みがあるのを前提としたうえで、私の住む町にもあったであろう風景が描かれているからなのでしょう。
今の東京と私の街は全く違いますが、本書に描かれている風景は、私の覚えている賑やかだったころの風景と地続きであると感じることができます。

賑やかだった商店街は「シャッター街」になり、道路沿いにあるチェーン店の大型スーパーやホームセンターで買い物をし、本はAmazonで注文しています。かつての風景は私の中にしかありません。

住宅地図や市史を使いつつも、著者本人の記憶する風景が、そのまま出力されたのが「玉電松原物語」です。ここにはインターネットで検索しても出てこない出来事や風景が描かれています。
読み手それぞれの「住んでいた街」のことを思いださせる傑作。