黒川博行「連鎖」
黒川博行の新刊「連鎖」を読み終えた。
昨年2月に読んだ「熔果」で黒川博行を知り、面白かったので新刊「連鎖」も読んだ。
本作「連鎖」と伊達・堀内が主人公の「熔果」(2021年11月)には、バディ物でロードノベルという共通点がある。
ただ「連鎖」の2人(磯部と上坂勤)は京橋署防犯係の刑事なので、派手な立ち回りはない。それどころか、上司への報告と上司からの指示がついて回る。捜査をするなかで浮上する関係者への聞きこみと携帯やレンタカーの会社への捜査協力依頼とNシステムや犯罪歴照会へのアクセスを中心とした地味な操作を積み重ねているのに飽きがこないのは、掛け合いの面白さもあるし、少しずつでも前に進んでいるという感覚を得られるから。
捜査の舞台となる大阪・和歌山に土地勘がないので、位置関係を立体的に想像できなかったのは残念だったが、それでも一気に読み通せる面白さがあった。
「熔果」と「連鎖」に共通して多様な飲食店に寄るが、主人公2人の経済力の違いが店選びにも表れていてリアリティがあった。
他にも「熔果」で移動に使った車は堀内の買ったBMWのZ4で、本作「連鎖」は警察の公用車を使用と、2冊を読み比べることで共通することと異なることが見えてくるので、セットで読むことをお勧めします。
坪内祐三「玉電松原物語」
振り返るとかなり自由な時代だった。
2020年1月に急逝された坪内祐三さんの遺作。
2020年10月の刊行直後に予約注文していたが、東京の風景に馴染みがないため、手が伸びずにいました。
著者が過ごした幼少期の風景や出来事や人々を描いているのだが、行ったことのない世田谷区の知らない風景の知らない人たちのことが何でこんなに面白いのか。
私が著者を愛読してきたから文章やリズムに馴染みがあるのを前提としたうえで、私の住む町にもあったであろう風景が描かれているからなのでしょう。
今の東京と私の街は全く違いますが、本書に描かれている風景は、私の覚えている賑やかだったころの風景と地続きであると感じることができます。
賑やかだった商店街は「シャッター街」になり、道路沿いにあるチェーン店の大型スーパーやホームセンターで買い物をし、本はAmazonで注文しています。かつての風景は私の中にしかありません。
住宅地図や市史を使いつつも、著者本人の記憶する風景が、そのまま出力されたのが「玉電松原物語」です。ここにはインターネットで検索しても出てこない出来事や風景が描かれています。
読み手それぞれの「住んでいた街」のことを思いださせる傑作。
Amazonで本を買うと「帯」がついてこない問題
ネットで本を買うとコンディションも気になって。届くと折れていることもあるので。弾くためにも本屋で
ちゃんと見て買います。
今日、Amazonに注文していた曽我部恵一の新刊「いい匂いのする方へ」が届いた。開封すると「帯」がない。
またかよ、と思った。
先週くらいに買った佐野元春「ザ・ソングライターズ」にも「帯」が付いていなかった。
「帯」には宣伝文句や簡単な内容紹介、推薦文、本文からの引用が掲載されています。
つまり「帯」は広告です。
広告である「帯」は、どこまで「書籍本体」と一体化しているのだろう?
「帯」が付いていない本は返品対象になるのだろうか?
「帯」がなくてもいいっちゃいいんだけど、開封したときに「帯」がないと少しへこむんだよな。
私の本についていた「帯」はどこへ行ったんだ?
地方在住の私にとっては、Amazonが9割なんだから、頼むよアマゾンさん。
「今日拾った言葉たち」武田砂鉄
歴史の軽視を食い止めるのは、いつだって、「一粒の砂」なのだ。
2023年の2冊目。
「集めた言葉」だと、何かしらの狙いやフィルターが見える。目的ありきのことばというか。
「拾った言葉」なら、「集める」より無防備な印象を受ける。
「気鋭のライダーが心の網にかかった言葉を拾い上げ、その裏に隠れた本音に根気よく迫る社会批評集」と帯にある。オブラートに包んだ言葉もあるし、本音の言葉もあったから「隠れた本音」は違うと思う。
単純に、誰かの言葉により考えを広げていった文章であると感じた。
安倍や麻生の国民を舐めた言葉も載っているから単純な名言集ではなく、考えを広げるきっかけとなるような言葉が載っています。
本書は雑誌「暮しの手帖」での連載をまとめたもの。
連載期間は2016年から2022年6月にかけてであり、巻末に安倍晋三暗殺時にラジオで発した著者の言葉が自身で書き起こされ収められています。
安倍晋三暗殺で時代が動いたわけで、本書は動く前の時代の記録でもある。
「名探偵のままでいて」小西マサテル
「夏休みを目前に控えた、最後のプール授業。空は、梅雨が明けたばかりで雲ひとつない。うだるような暑さの中、みんなの憧れだったマドンナ先生が蜃気楼のように消えてしまう。それは子供たちにとってみれば一生、誰かに語りたくなる物語になるはずた。昔も今も、世の子供たちにとって、ひと夏のふしぎな物語にまさる経験なんてないよ」
2023年の1冊目。
宝島社が主催する文学賞「このミステリーがすごい!」2023年の受賞作。
作者が「ナインティナインのオールナイトニッポン」の放送作家とのことで、「佐久間宣行のオールナイトニッポン0」で紹介されていた話題作。
事件を解決する人が現場に立ち会わない「安楽椅子探偵」タイプのミステリー小説。
安楽椅子探偵はレビー小体型認知症の元・校長先生でミステリーマニア。
主人公であり語り手は孫娘役の小学校教諭。事件に遭遇して祖父の話を聞きに行く時「待ってました」という気分になるのでキャラクターが立っている小説でした。
「煙草を1本くれないか」と言ってゴロワーズを呑む。
ドラマ化されるんでしょう、きっと。続編に期待します。